バラの香りについて

片桐青氷

4-7 ミルラ



香料でミルラ(Myrrh)とは没薬のことで、ウッディーでグリーンな樹脂様の香りがします。

イエス降誕の際に、東方の3人の博士が持参した贈り物は黄金と没薬と乳香である、と聖書に書かれてあるそうです。

バラの香りで表現されるミルラ香は没薬の香りではなく、パラ・メトキシスチレンという物質の匂いであることが解明されています。

私は実際にこの物質の匂いを嗅いだことはありませんが、この物質はフェンネル(ういきょう:茴香)やスターアニス(八角)の主成分であるアネトール(Anethol)と化学構造式が類似しているので、アニスのような香りがするのではないかと想像しています。

ではなぜアニスのような香りのするバラをミルラ香と表現したのかという疑問を解明する答えは、国際香りと文化の会会長中村祥二氏の「バラの香り」という文章の中にありました。

1845年にベルギーで作出されたBelle Isis ベル・イシスに強いミルラ香があるという解説があり、以来、バラの世界ではBelle Isisと同じような香りのするバラをミルラ香と表現されてきた経緯があります。

日本でミルラは没薬のことなので、日本ではつじつまの合わない香りの表現となっていたようです。

2006年になって、ベル・イシスのミルラ香はセリ科のSweet cicely(別名:Garden Myrrh)のことを指していたという研究結果が発表されて、ここで表現されたMyrrhが没薬のMyrrhではなく、別名ガーデン・ミルラのスウィート・シスリーのアニスの香りを指していたことが解明されました。

また、Belle Isisの起源をたどっていきますとRosa arvensis Ayrshire Splendensというバラがこの香りを持つ最初のバラであったそうで、このバラは2016年5月に佐倉市の草ぶえの丘ばら園で、野村先生が案内してくださったバラということがわかりました。また国営越後丘陵公園にもあるそうです。

多くのイングリッシュ・ローズにこの香りがあり、スヴニール・ドゥ・ラ・マルメゾンもその一つです。

1843年、フランス、Beluze作のクォーターロゼッタ咲きのブルボン系オールドローズです。




スヴニール・ドゥ・ラ・マルメゾン.pngスヴニール・ドゥ・ラ・マルメゾン(2015年5月撮影)

アネトールとパラ-メトキシスチレンの化学構造の比較

アネトール.png
アネトール
C3H5
パラ-メトキシスチレン.png
パラ-メトキシスチレン
C2H3

中心にある六角形のベンゼン環と
上に付いているメトキシ基(-OCH3)は同じです。

違いは下側についている基で、アネトールはC3H5基、
パラ-メトキシスチレンはC2H3基という違いですから、
匂いも似ていると思われます。